2012/11/24

棉が綿にかわるまで:米市農園、和棉組

2012年11月 米市農園和棉畑にて

畑に咲いた棉の花が、ほぐされて綿になり、紡いで織って木綿になる。 棉はアオイ科の熱帯地方が原産とされる植物で、あまり寒い地方では育たないとされる。 見たことのある人は少ないかもしれないが、芙蓉のような美しい花を咲かせ、実をつける。 その実が熟してはじけたものが、いわゆる綿花。 コットンボールともいわれる中に種を含んだふわふわのかたまりである。 はじけて白いわたが顔をのぞかせた綿花は、オブジェに飾られることも多いので、 見たことのある人は多いと思う。

棉には、米棉、インド棉など、いくつかの種類があるが、 日本で伝統的に栽培されてきたのは和棉である。 しかし、繊維が長く、丈夫で加工しやすい洋棉に押され、和棉はまたたく間に衰退。 棉の自給率は、明治中頃には100%だったものが、いまではほぼ0%である。 米市農園の和棉組の活動は、棉の自給と和棉の伝統をもう一度取り戻すために和棉の服を作ろう!というプロジェクトである。 現在のメンバーは30人ほど。棉を育て、糸を紡ぎ、布を織り、服を作る一連の過程をみんなでやる。 衣料の自給、織り上げた木綿の野良着を作るのが目標だ。 その和棉組の活動について、米市農園の高橋さんご夫妻にお話をうかがい、 実際の作業を見学・体験させてもらった。


◎和棉組について

――和棉組をはじめたきっかけを教えてください。

洋平:自給自足を目指す米市農園にとっては、衣料の自給はとても大事なことです。 最初に、米、野菜、食べ物は出来た。次に住むところも、廃材を使った建築で、だいたい出来るようになった。 じゃあ、次は衣食住の衣、ころもをやっていこうじゃないか、ということになりました。 ここで、エネルギーの自給を目指す人も多いんだけど、僕たちは棉というものに興味があったので、棉に取り組むことにしました。 棉にはいくつか種類があって、米棉、和棉、印度棉などがあります。 和棉は、日本で伝統的に育てられてきた棉です。でも、だんだん少なくなってしまった。 今はまた、各地で育てられるようになって、どんどん増えては来ているんだけど、その和棉で服を作ろうじゃないか、ということになった。 それは、自給自足を目指す米市農園にとっては、すごく大事な仕事。ほかの人がなんと言おうと。

自然農で棉を育てて、収穫して、糸に紡いで、糸を織って布にすれば、服が出来ます。 でも、現状でいうと、その工程はすごく、果てしないんですね。 実際、僕らも糸までしか出来ていなくて。 最近、高機(たかばた)をもらったんですけど、織るところまで糸の量がそろわない。 棉から綿にするのは、すごいことやなあっていうのが、実際にやってみるとあります。

でも、それぞれの国が、それぞれの国で、自給が出来ないと、平和にならないと思うんですよね。 エネルギーの問題でも、衣料に関しても。いま、棉のほとんどは外国で作られています。 でもその裏を見ると、大量の農薬が使われて、環境破壊が広がって、地下水が汚染されている。 そんな現状よりは、みんなが服を作れるような力が出来たら、もっとよりよい社会が出来ていくんちゃうかなあ、というのが、和棉組の出発点です。 が、現状ほど遠いですね。もうちょっといいアイディアがあったらいいんですけど。

みやちゃん:一番最初の年は、洋平さんも焦っていて、棉を作ったらすぐ服にしようと思って、いちど紡績工場に持っていったんです。 棉だけ作って、あとは頼めないかなあって、その辺はいろいろ当たってみました。 でも、和棉を布にしてくれるところはありませんでした。いまの機械は、米棉じゃないと紡げないんです。だから和棉が淘汰されて、どんどんなくなってしまった。 オーガニックコットン? 洋棉ならやってあげるけど、和棉は無理って、みんなに言われて。 じゃあ手でやるしかないよね、ってなったときに、和棉組を作ろうかってなったんです。 出来ないのだったら、みんなでやろう。手作業は果てしないので、協力してくれる人を集めようってはじまったのが和棉組です。

――糸まで手作業にして、あとは頼むことは出来ないんですか。

洋平:出来ると思うけど、その技術はいります。もともと、和棉は洋棉よりも、千切れやすいんです。 それを糸車で紡ぐから、よっぽど上達していないと、千切れやすい糸が出来る。そこまでのものが出来ればいいけど、いまはまだそこまで行ってない。糸もほんのちょっとしかなくて。

みやちゃん:機械で紡ぐのを止めて、自分たちで全部やっていこうよってなったときに、糸だけ作ってあとは持ち込もうっていう発想はなくなりましたね。

洋平:途中で消えたね。

みやちゃん:活動をするなかで、実際に全部の工程を自分でしている人たちとの出会いがあったんですね。 そこで、ああ、糸って織れるんや、自分たちで全部出来るんだっていうのが見えてきたので、糸だけ作ってあとは頼むっていう発想は、あんまりなかったです。 織ってくれる人も、織れる人も、つながりのなかで出来てきました。だから、糸が出来たら織るところまで、ビジョンは出来てるんです。

洋平:あとは糸をたくさん作ればいい。

みやちゃん:和棉組も、来たいときに来て作業してね!っていうのではじめたんですけど、なかなか実際に来て作業するのは難しいですね。

――たとえば家で作業することは出来ないんですか。家で糸車を紡ぐとか。

みやちゃん:そのための道具がかなり高いんです。よっぽど本気じゃないと買えません。それに、実際に作業をしている人たちって、一日中その作業をしているんですね。 何かの片手間じゃ出来ません。ふだん小さい子供がいるお母さんには無理だと思うし。 だから、興味を持って来てくれる方はいるんですけど、体験だけで終わってしまって、実際の作業には結びつかない。

洋平:時期が来たら、どんどん進んでいくのかなと思うんだけどね。そのタイミングを待っている感じです。いまはちょっと動けないので。

――棉を育てることについてはどうですか。

洋平:棉は、自然農で育てることも出来るし、肥料をあげて育てることも出来る。 ただ、自然農だと収量は少ないです。耕した場所、肥料をあげた場所だと、もっと取れる。 肥料の入れ加減でぜんぜん違います。育てることに関しては、どこでも出来ると思う。 いちばん楽なのは、肥料をちょっと入れて、耕したらがっちり育つ。でもそれは僕はあまりしたくないんで、 自然農で小さく少なく収穫して、やってます。 去年は自然農でやって、だいぶ少なくて種が取れなかったから、今年は耕したところでやった。肥料はいっさい入れてないけど。 種を別のところから分けてもらったので、失敗できないというのがあって。でも、ちゃんと管理したら育てられると思います。

――和棉の全体の工程について教えてください。

洋平:五月ごろに、棉の種をまきます。これは直播、ポット播、どちらでもいけます。 植えつけた三週間後くらいに草刈をします。成長が悪ければ追肥をします。 支柱を立てる人もいます。でも自然農の場合はそこまで大きく育たないので、支柱を立てる必要はないんですけど、 背が大きくなったら支柱を立てます。収穫が花が八月下旬くらいに咲いて、十月くらいから、弾けた分から収穫が始まります。 霜が降りる11月くらいまで。今がちょうど終わるか終わらないかくらいかな。遅れれば遅れるほど、棉の質は悪くなります。これで棉が出来ました。 次は、棉の毛と種を分ける作業、棉くりという作業があります。 棉が分かれたら、今度は弓打ちといって、押しつぶされた棉の繊維を膨らませる作業があります。すると糸が均一になる。 そのあと糸紡ぎ。糸車を使って糸を紡ぎます。糸になります。 それを撚り止めといって、お湯につけます。あ、お湯じゃなくて灰汁かな。灰汁につけます。 それから、糊付けといって、小麦粉をいれたお湯に入れて、糊をつけます。そうしたらちょっと丈夫な縦糸が出来ます。 縦糸が出来たら、横糸と合わせて機で織れます。これで布の出来上がりです。

――この全部の工程を和棉組でするんですか。

洋平:そうです。だから、季節によっては、種まきの作業とか、草刈の作業。

――種をまきますよ、草を刈りますよ、といってメンバーにお知らせが届くわけですね。

洋平:そうすると、草刈か、やめとこか、ってなったりする(笑)。 手芸に興味がある人って、棉にすごく興味があるんです。 自分で取った棉で手芸やってみたい、って思うんですけど、いざ現実を見てみると、畑作業か、ってなる(笑)。

――たしかに、手芸好きな人と畑好きな人は、ぜんぜん違いますよね。

洋平:インドアとアウトドアで両極端だからね。(了)